2013/07/11

鞭-Ⅱ-107=147

B(鞭使いの看守) 大衆とは、ドラクマ硬貨みたいなものよ。一つ一つは取るに足らない小銭もそれなりに集まれば、それなりに力を持つ。

A(無知な哲学者) 至極、金言だ。だからこそ、せめてこれから民会の構成員になるであろう青年たちには、真面目に国のことを考えてもらおうと、私はアゴラで議論をしてきたわけだ。それを感謝されるならまだしも、訴えられるとは!

B(鞭使いの看守) 「ピュトス区の人、メレトスの子、メレトスは、アロペケ区の人、ソプロニスコスの子、ソクラテスを次のごとく公訴し、宣誓した上で口述するものなり。ソクラテスは、国家の認める神々を認めないで、他の新奇なる神霊のたぐいを導入するという罪を犯している」

A(無知な哲学者) 何を言っているんだ。確かに私はダイモーンの声を聞くことができると多くの人に話してきたが、だからといって国家の、いやギリシアの神々を認めてないわけではない。神々を奉り、供えも忘れたことはない。また私にしか聞こえないダイモーンの声を、一体誰にどうやって勧めたらいいというのかね?

B(鞭使いの看守) 「また、青年たちを堕落させるという罪も犯している」

A(無知な哲学者) あべこべだ。啓蒙されることのどこがいけない? 共に知恵を愛し、魂を浄化させることのどこが堕落なんだ。

B(鞭使いの看守) 「よって、死刑を求刑する」

A(無知な哲学者) 訴えられるだけならまだしも、死刑とは! これが今のアテナイだ。

B(鞭使いの看守) 待って、ソクラテス。確かに有罪の判決は下った。でも、僅か三十人ほどの人間が逆に票を入れていれば、無罪になるような状況だった。

A(無知な哲学者) ああ。

B(鞭使いの看守) それだったら、いくら死刑を求刑されてたとしても、まずそのまま死刑になるようなことはなかったはず。せいぜい、いくらかの罰金で済んだ。

A(無知な哲学者) 確かに。

B(鞭使いの看守) 貴方の弟子たちは三十ムナものお金を用意していたわ。そのくらいの大金があれば充分だったでしょう。でも貴方、量刑の段になって、なんて言ったと思う?

A(無知な哲学者) 「私の成し遂げた功績に鑑みて、私は迎賓館において食事を饗されることを刑として申し出たい」

B(鞭使いの看守) そんな刑がどこの世界にあるのよ。ご馳走になる刑なんて。これじゃあ同情どころか、誰だって反感を持つわよ。あげくにさっきの有罪票にさらに八十もの票が流れて、結構な差がついて死刑が決まったわ。……おかしいじゃない。罪もないのに殺されるなんて。

A(無知な哲学者) じゃあ君は、 “罪があって” 殺されるほうがいいのかい?

B(鞭使いの看守) いや……そういうことを言ってるんじゃなくて……。

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