2013/08/03

鞭-Ⅴ-46=69

A(男) 自分自身はどうだ? 「コギト・エルゴ・スム」。我思う、ゆえに我あり。他のものは確かに曖昧に認識してるかもだけど、自分自身は疑いようがないだろ。

B(女) あなたは、自分自身を知ってるって言うの?

A(男) ああ、そうだ。

B(女) じゃあ、あなたは自分の顔を見たことある?

A(男) あるだろ、普通。ここに来てからは……見てないけど、毎朝鏡で…

B(女) 鏡が見せるのは、嘘よ。だって左右が逆になってるじゃない。鏡を見慣れた王様が肖像画家を処刑した、なんて寓話知らない? 描かれた自分を見て、ホクロの位置が逆になってるって。

A(男) 鏡がだめなら、それこそ肖像画だとか、写真、映像…

B(女) そうよ。他人があなたの顔を見るように、あなたがあなたの顔を見るには、何らかの装置を通さないと無理よね。直接、自分の顔を見ることは、一生かかっても無理でしょう。

A(男) ……。

B(女) じゃあ、自分自身の体の中は? 体の中は見たことある?

A(男) ……ない。

B(女) おかしいじゃない。自分自身を構成する大事な体の中身を、私たちは知識としては知っていても、実際に確認することはできないなんて。病気をしたって、どこが故障しているのかすら、はっきり自己認識できない。漠然とどこの器官かすら限定できない、痛みというたった一つの反応だけが、私たちの病気の、体の中の、認識の全てなのよ。生命に関わることにもかかわらず。

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