2015/02/03

エピタフ(墓碑銘)


険を冒す
「危ないところを、あえてむやみに突き進む」
そう二つ名を与えられた男が
魂をベットしつづけた聖域が消えようとしている

誰もが行おうと
刹那も思わなかったことを
そのばかばかしさに
常人にも狂人にも
万人の思いつく限りの涯にすら
見つけることができない境地を
毎朝、軽々とやってのける
偉業
毎日、大阪のお天気を朝の挨拶と一緒につぶやく
それだけのただそれだけの
しかしそれだけの実につまらないことを
誰に頼まれたわけでもなく
永劫

誰もがその困難に
尻込みしてしまうはずだ
この男の他に誰ができようか
タルタロスで繰り返し永遠に
位置エネルギーの無駄遣いをしている
山の頂まで押し上げられては
谷の底まで転げ落ちていく
シーシュポスの巨岩とて
彼にとっては
踵のガサガサを落とす軽石のごとしだろう


万物の事象が依拠する
根本則を歪めてまで贅肉を取り返した
動くクズ肉の
短小のつぶやき
「ごめん」「ウソついた」

破格の男による
長大のアカシックレコードが
消える

あつい脂肪で包まれた脳髄には
あつい仲間たちの嘆願は届かないだろう
危険に飛び込むことを厭わない男はやりすぎた
それが当たり前と
とられた時
嫉妬に染まった狂王は幕を閉じるのだ

脂肪特有の酸敗臭をさせた
その口から洩れるのは
安い中華屋の床のように
油膜でぬめった
上滑りする言葉だけ
跳ね返りのデブが
頭を絞って出てきたのは
揚げ油だけ

一切入れ換えることなく
闇雲に揚物を揚げ続けて
突っ込み続けてコールタールみたいに
真っ黒になった揚げ油に浸かった世界で
男は立ち続けた
毎日スベろうが
「おはようございます」と
誰からも興味を持たれまいが
「今日の大阪は曇りです」と

誰も見向きもしないが
彼は全身ネバネバまみれで
無限に世界を毎朝スベり続けている
その摩擦係数はゼロと考えてよい

純粋物理の世界まで到達した彼こそが
冒険そのものなのだ
極小の存在と極小の運動が掛け合わさって
極大の領域が拡がった
それを宇宙開闢と我々は定義する
彼は世界が膨張した瞬間から
そのはじっこをスベり続けている
それが彼の恣意的行為というのなら
それを我々は「険を冒す」と呼ぶしかないのだろう


その小ささに倣いここに小さく刻む
ここに冒険を知る者がいたことを





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